どうしてクローバーを経営することになったのか その2 前オーナーNさんのこと
その1からの続き
プライベートの池として使うために買ったクローバーだったが、いつの間にか自分が運営することになったのは、前の持ち主であるNさんとの出会いが大きい。
ほとんどの人類に、Nさんのような人と会ったことがある人はいないと思う。超が何個付くか分からない個性的な人だ。
物件の内覧がてら初めてクローバーを訪れた際、事前に不動産屋さんからは開店休業中と聞いていたのだが、偶然にもNさんは店舗内にいた。
まず見た目が強烈で、特攻の拓の鰐淵を臭わせる風格だった。
余談だが、これは後に知ることになるのだが、実際Nさんは「昭和のダサイやつ」をコンセプトにファッションを全身でキメているらしく、なんでそんなコンセプトを選んでいるのかは知らないが、とにかくもう見た目からしておかしな人だった(褒めてる)。薄色のサングラス、細い眉、ピアス、坊主であり、眼光がどう見ても一般人のそれではない。これから人食いベンガルトラでも倒しにいきそうな雰囲気がある人だった。ちなみに超イケメンである。
曰く、「俺はIQが140超えの天才だ」「何の商売をやってもうまくいく」「どんなことでも金に出来る」など、初対面である私にずいぶん色々ハードパンチを繰り出してくる。「それ、物件の売買に必要な情報か?」なんて思いつつ聞いていたものだ。
これも後日談だが、上記のハードパンチはなるほどNさんなら実際そうだろうなと思わせる経歴や考え方や頭の回転、何よりも鋭い勘と感性を持っていることはありありと分かった。本当に面白い人だ。
当初、実はプライベートの池にしようと思っているということは伏せて話を聞いていていたのだが、この店の成り立ちや取り組んできたこと、いかに多くのお客様に支えられてきたか、釣りや釣り堀屋の面白さをなどをどんどん教えてくれ、話術もあってずいぶん聞き入ってしまったのだった。
肝心の「なんで店を畳むのか」については最後まで核心は不明だったのだが、商売が上手くいってないからということでもなさそうだった。
売買後も釣り堀屋のイロハは全部引き継ぐよという話だった。ただ、そのことは契約書には一切記載がない。このような場合、多くは契約が成立した瞬間にそんな思いや方針など反故にされることが多い。
私としてはもしもイロハが引き継がれなかったとしてもプライベートの池として使うのだから問題はなかった。
ところが、である。晴れて契約に進みそうだと内金を入れた後も、その後本契約が成立しお金を振り込んだ後も、大変に丁寧な引き継ぎノートを準備して下さり、その一つ一つを大変な労力と時間を掛けて実地で説明して下さったのだ。
「普通そんなこと引き継ぐか?」という細かく深い内容まで。明らかにそんな責任は前オーナーにはないにも関わらずだ。その姿勢や人間性に深く感銘した。
ここまでされてしまったら、今さら「いや、実はプライベートで使う予定なんです」なんて言えない。多くのお客さんの思い出の場所にもなっているとのことだし、もう引き下がれない。やるしかない、と。
それが24年の2月のことだ。私はまだ前職に所属していて、株主総会をもって正式に社長を辞し退任、そんなタイミングだった。
春はもう目の前だ。どう考えても時間が足りないがとにかくやるしかないと見切り発車でプロジェクトをスタートさせた。それがオープン日の4月1日だ。
やると決めてからスタートするまでの2ヶ月も本当に色々なことがあったがそれは後日にまた記すこととする。
最後に、改めてNさんには感謝しかない。オープン後もしばらく色々と気に掛けて下さり随所でアドバイスもいただいた。本当に頼れる兄貴である。