AIと釣り堀屋と飲食店
AIを使わない日は恐らくもうないのだろうと思っているし、どんな業種であれAIをいかに活用するかは経営の必須テーマだろう。
自分がどの程度使いこなしているかは分からないが、生成型の登場以来最も”会話”をする対象はAIになった。独身おっさんとしてはなかなかに寂しいことではあるが、不満はない。
もしも生成AIの登場があの時期になかったら、私たちは恐らくクローバーを始めていない。このお店が商売として”成立”するのかをAIに壁打ち相手になってもらって様々調査したり議論し、”いける”と判断することに至ったのだが、それは自力でもやろうと思えばもちろんできるのだが時間的猶予がなかったのだ。すぐに決めなければならないが何も分からないとき、AIは力を発揮する。
AIについて初めて触れたのは今は懐かしいサンモール一番町の丸善によく通っていた高校生の時分で、金がなく立ち読みだったのでそれほど内容は覚えていないが、当時SFの世界でしかなかったシンギュラリティについてコンピューティングの力がどの程度必要なのか?ということの一端を提示した「電脳生物たち: 超AIによる文明の乗っ取り」という本だった。
当時から最近まで、AI(あるいはコンピューティングパワー)は仕事がなくなるとか文明が崩壊するとかそういう話が多かったが、私は自分が使うとき/一般化した時に知的生産活動がどう変化するのか?ということにのみ強く関心があった。私はどのような付加価値を発揮できるのか、創造力を得られるのだろうか?と思ったものだった。
やがてインターネットが登場し、集合知・共有知が現実になり、渡辺朗がBonanzaにあと一歩まで迫られたとき、私の仕事観は時間軸という意味で一変した。AIが2七香と指す日は目前に迫っている、その意味合いは”知能ではないが知能的である”と、そう思ったのだ。
ならば、10年、20年と続く今後の仕事を考えた時に、私が持っている知識や経験のほとんどはやがて役に立たないだろうし、知的アウトプットで食っていける猶予はそう長くない。とするならこの仕事を続けることは人生というスケールでは意味が見出せなくなった。会社を畳む日は近いのではないか。
だから、というわけではないが、好きなことをしていくということに舵を切り、飲食に携わりたいと考えた。会社の隣にアパートを借りてカレーの試作と研究をした。当時の社員は気が狂ったと思ったことだろう。3ヶ月ほどカレーを作り続け、とてもおいしい、満足のいくものができあがった。
事業計画も作りさぁこれから物件探しだという時にリーマンショックが起きて、それどころではなくなってしまい頓挫したのだが、レシピは未だにあるし社員にも「いつか絶対にやる」と宣言していたものだった。その後会社は畳むことはなかったが私は退任し、カレーの前にまずトウガラシを作るべく蔵王に転居してきたわけだ。カレー屋を前進させるために。
なんの話だが忘れたが、ようするに以来、機械学習・深層学習と進化していく過程やコンピューティングの進歩もつぶさに観察し通時的に捉えていくよう心掛けていたわけだ。
ずっと追い続けていたから、生成AIが登場したときも特段驚きはしなかった。なぜならこの予想はもう10年以上前に「10年以内に登場する」とリアルなロードマップとして言われ続けていたからだ。いつか来るその日をおぼろげに意識し続けたおかげか、ベストなタイミングで転職できたと思っている。転職先が釣り堀屋という点を除いて。
そんな釣り堀屋の私だが、もちろん生成型以外にも色々試している。
最近は画像認識にハマっており、店舗のタブレットで釣れた魚を撮影するとその魚の種類が何で、何グラムあるかを自動で識別するミニアプリを作った。当店のお客さんの中には自分が釣った魚が何かわからない人も多い。特に子供にはそれをわかってもらいたいし、魚コンテンツに誘導し知的好奇心を満たしてあげたいと思ったのだ。
判別はできるし機能としては十分だったのだが、我ながらかなり使い道のないどうでもいいものを作ってしまったと思っている。UIを作るのが面倒なのでゴミ箱にGOとなった。
次回作として以下の二つを考えている
(1).車のナンバーと走行方向からデータを取得しマーケティングに活かす
- 通行量の把握
- 当店に入店する車の割合
- 往復した車の割合(仙台方面から蔵王キツネ村を往復した可能性が高い、あるいは山形・福島から仙台に遊びに行くついでである可能性が高い、というデータの取得)
- レンタカーの割合(旅行者)
- 都道府県と仙台市からの来店
- リピーターの割合
- 以上のデータから"近所の人"(何度も通る人)を除きターゲットとなり得る車が何台通るのか
なんぞを自動集計するものを作ろうと思っている。たぶん作れるのだが、問題は膨大なデータの保存とプライバシー保護などで、AI以外の部分にある。オープンしたての時には手集計でやっていたのだが作業量としてやってられなかったのでもし完成すればなかなかの効果を発揮しそうだ。
(2).池に入っている魚の量と種類を判別する
- 魚種ごとに、各池に今何匹いるのか
- 合計で何キロいるのか
- それらをリアルタイムでWebサイトに公表する
というものだ。
使い道は、わかりやすくて手間の掛からない情報発信というのはもちろんだがほかにも理由がある。
一つ目が、魚の仕入れサインの閾値を自動判別したいというのがある。今は目視で「あぁ、魚減ったなぁ」となると養魚屋さんに連絡し「魚いねーっす!」とヘルプを出すのだが、こういうものは暗黙知になりがちだしタスクそのものを消滅させらはずだから取り組まなければならない。
二つ目が、原価管理・満足度向上である。今日1日で何匹釣れたのか?というのは大凡はわかっているのだが、アバウトである。また、それが何キロか?はほぼわからない。それはすなわち、顧客ごとの利益率はわからないということになるし、釣れているお客さんとそうでない場合も正確には把握できていないのだ。当店の利益率が減少しすぎない範囲で、釣れていない人にもっと釣ってもらうには「釣れていない」という事実を全体のデータとしても具体のデータとしても持っておく必要があるのだ。
三つ目が、上記にも関連した「釣れない」の原因究明である。釣りには「スレ」という言葉がある。魚が慣れまたは警戒してしまって中々釣れない現象のことを指す。当店でも発生することがあるのだが、その傾向に一貫性が全くなく発生事由がわからないのだ。魚を追加せずどんどん減っているのに釣果に全く影響がないこともあれば、大量の魚を投入してお客さんもあまりいないのに釣れないなんてこともある。もしかしたら釣りに詳しい人にはわかるのかもしれないが、私は釣りをしないのでこの現象差から情報を抜き出せないのだ。
「スレ」は、未だ科学的に解明されていないことが多いのだが、学習説と伝播説と個体差説との3つがある。リリースが原則ない当店では学習説は除外してよく、伝播説は解決策がないのでやはり除外、となると個体差説の検証を行うことになる。やはりこれもどの程度魚が減って、残った魚たちはどのような特徴があるのかを観察することで「当店で起きるスレ」(に限定して)原因を突き止めることができるかもしれないと思っている。
ちなみにこの画像認識は格段に難しい。AIうんぬん以前に「魚の数を数えられる画像」を揃えるのが難しいからだ。天気や時間、池の汚れ具合によって写真を撮っても全く魚が写っていないことがあるためだ。ここがハードルである。
以上の2つについては稼働してどうだったかがわかればいずれ報告する。ただしこれから忙しくなるので大分先になりそうだ。