ミミズの養殖をしています
将来飼いたいなぁと思っているペットがいて、その餌としてミミズを選択し数年前から情報収集をしていた。また、農業をする上でも土作りの一環として利用できるのでということで、本を買い集めていた。
ミミズは大変におもしろい生物で、これだけ身近にいながらもわかっていないことが多いし、巷には誤情報が溢れていることも分かった。上記の「土作り」などがそうで、よく言われることであるが実際は効果を出すことは難しそう(というより繁殖をマネジメントできない)。
色々あってクローバーを経営することになり、知識で終わらせず実践、本格的に養殖することにした。
いくつか理由や仮説がある。
- 最強に釣れる餌を開発したい。特に子供が釣れないということはなんとしても回避すべく「この餌さえ使えば絶対に釣れる」という選択肢は用意しておきたい。
- ミミズは栄養的に大変優れている。タンパク質やミネラルも多分に含んでいるのでおいしい魚を提供するために餌として使えるのではないか。
- 毎日大量の魚の内蔵や食品廃棄物が出る。段ボールをはじめとした紙類も多量に出る。これを分解してもらいたい。廃棄コストも馬鹿にならない。また、FCRという値があって、例えばニジマスやギンザケは1.5程度である。ニジマスを1kg太らせるのに必要なエサの量が1.5kgという意味であるが、これはなかなかの負担である。自家製の再生飼料で太らせることができれば成果としては大きい。私たちの考える塩焼きに適したサイズは200g以上であるが、これを200gの状態で仕入れるのか、100gの魚を仕入れたのち200gに育てて釣ってもらうのかは大きな差が生まれるのである(この単純計算の場合は仕入れ値が半分になるということである。もちろん実際にはこんなに簡単な計算ではないのだが)。飼育しているミミズの体重は1匹0.4gであるから、例えば100gのニジマスに1日6匹ずつエサを投下すると2ヶ月で200gのニジマスになる。大きな魚を提供できればその分釣りに来た人には楽しんでもらえるし、食い応えもあるだろう。※1
- ミミズの糞は非常に秀逸な飼料になる。これらの一部を使って栄養価の高い野菜を育てうまい料理を提供したい。
こんな感じだ。
以下余談。
もともとは(まだ飼ってもいない)ペットにあげるためだったのに、なんだか壮大になってきた。日本で発売されているミミズに関連する本はひとまず全部読み、そこで明らかになっていないことについては最新論文も読み知識武装はしておいた。
「とりあえず全部読んでみる」は前職から変わらない自分のスタイルで、出足が重いというデメリットはあるが正しい仮説を立てやすく、検証もしやすい。自分の間違いに気付けたり勘違いを払拭できるメリットもある。
最も参考になった本はその名も「ミミズ養殖読本」というものであるがすでに絶版で、中古は1万円近くした。やむなく久方ぶりに県立図書館に行きほかの図書館から取り寄せてもらった。
ようやく届いたとのことで赴いてやっとの思いで手に入れたのだが、なんだかとても嬉しくて、図書館のエレベーターを待っている間にもむさぼるように読んでいた。
その時、突然肩を叩かれた。その主は前職の社員夫婦だった。
私は前職を退任する際、社員達には次に何をするのかを言わなかった。我慢しきれずエレベーター前で喜々としてミミズの本を読んでいる姿を見られてしまって恥ずかしかった。その時は池の掃除をした後で、泥の付いた作業着に長靴というイデタチだったので尚更である。1人で遠い県立図書館まで来てどんな本を借りたのか?というのはあちらも興味があったのかもしれないが、よりよってミミズの養殖の本だったので笑いをこらえている風だった。無理もない。ごまかしに「もうすぐカフェを開業するんだ」と回答しておいたのだが、カフェというにはクローバーは言い過ぎだし、なんでその男が開業直前の忙しい時期にミミズなのかわけわからなかったことだろう。
閑話休題。
まぁそんなこんなで、最初のミミズは近所から拾ってきて観察していたのだが、一定の知識を得た段階でいよいよ100匹を購入し、ミミズ養殖をスタートさせた。
パラメータは土・エサ・飼育環境・水分量であり、成果定義は釣果・個体増量数である。
個体は増えないが釣果が優れる、エサはよく分解してくれるがなぜか死んでしまうなど様々な変化が見られる。
最初の頃はほぼ全滅したり脱走されたり届いたミミズの品種がオーダーと違ったりとトラブルがあったが徐々に軌道に乗り始め、9月には推定2000匹を超え、今は恐らく3000匹はいる。購入量からは5倍以上にすることができた。
飼育環境が優れていればミミズは4ヶ月で10~15倍に増えるそうだから、初手としてはまずまずの成績とみてよいだろう。
最終目標は「よく釣れる10万匹」である。2~3年で達成したいところだ。
目標にあたって5つの壁がある。
1.エサの確保
10万匹のミミズを養うのに必要なエサの重さは毎日最低20kgである。そしてできればそれを紙系50%、動物性30%、植物性20%の割合で用意する必要がある。瞬間で揃えることはできるが、毎日となるとかなり大変だ。月にするとそれぞれ紙系が300kg、動物系180kg、植物系120kg、年で考えればそれぞれがトン単位になる。
動物系は幸い毎日魚の内臓や頭が出るから一部は確保できそうだが、それ以外は前途多難である。
なんらかのルートを確保するか、当店がかなり繁盛して毎日野菜くずが出るようにしなければならない。こっちの方がはるかにハードルが高いのが難点だ。
2.場所の確保
現在は小さなビット(養殖の箱)で育てているので大して場所は取らないのだが、これが10万ともなるとやはり一定の土地が必要だ。のべ床にして大凡10坪程度は確保しなければならない。そんなスペースは店にはないので棚に収納することになるのだが、なにせビットは重いのだ。1つのビットは土と砂利で40kg以上ある。そして高いところに置けば当然中が見えづらくなるし、エサを与えること一つ取っても重労働だ。平坦に置くしかないのである。
3.個体数を一定量に保つ
10万匹までは疾走して達成できたとして、しかしその個体数は4ヶ月後には100~150万匹になってしまう。10万まで増やしたら一転、それを増やさないようにしなければならない。増やさないノウハウは世の中に全くなく未知の領域である。
一応お客様に提供する特別な生簀に入っている魚への餌に用いるので毎日一定量は減るのだが、減る量と増えようとする量をバランスするのはいかにも難しそうだ。なにせミミズは外からは見えないし、光があると一斉に土の中に潜ってしまう。一体個体数がどの程度いるのか?を毎日知る術はコストを掛けないと得られないのである。
4.コストの課題
ミミズを養殖することはできたとして、それに大金を掛けたり人的リソースを割きすぎるようでは何をやっているのかわからない。ヤフオクなどで売ることでコスト回収は出来るかもしれないがそんなものは雀の涙だし、そもそも販売事業ではないから経費は極限まで落とさなければならない。生き物であるから手間暇費用全て掛かるのでなんとかしたいところだが、今のところ大した解決策は見付かっていない。
5.越冬と年中確保の課題
最も確保が容易と思われる動物系のエサであるが、クローバーの冬の間の売上は夏場の5~10分の1程度になると思われる。クローバーの売上が減れば魚の内蔵も減る。「冬の間だけ朽ちた肉をください」などという都合のいい要求は誰も受け入れてくれない。
冬場は魚のエサもさほど必要ないため10万匹もいらないのだが、それにしても春になって本格的に必要なときに全滅してたなんてことになったら目も当てられない。
土の表面温度は気温に左右されるが、土中の温度はある程度コントロールできることが実験で分かっている。要は上手い具合に発酵を促進し暖房をしてあげればいいのだが、発酵熱は上手くいくと60度近くまで上がってしまうので塩梅が難しい。ミミズは土中温度が30度を超えると死滅してしまうのだ。
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というわけで、釣り堀屋のブログとしては相変わらず全くニーズのないことではあるが、一応運営日記ではあるからよかろうと自己弁護して締めたい。なお、結果として爆釣のエサができあがったことについては後日記載する。
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※1 本当は乾燥しているエサなのか水分を含んだエサなのかでこの指数の意味合いは変わるのだがその辺は置いておく。もとより乾燥飼料も含めて餌は与えるつもりであるため。